+ 主宰の刊行物より +

自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
雪解風破れ破れの能の幕     平成五年作

毎年四月十三日に行われる能郷白山の能狂言は素朴さが魅力。根尾に春を呼ぶ神事芸である。
2021/6/1(Tue)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
養蜂箱見廻って来し猿学師     平成五年作

岐阜県本巣市根尾能郷の白山神社祭礼に奉納される猿楽は国の重要無形文化財。十六戸の村人によって守り伝えられている。
2021/6/1(Tue)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
寒明の刃物の町に火事騒ぎ     平成五年作

岐阜県関市は孫六の名刀で名高い刃物の産地。寒明の日にこの町を通った。
2021/6/1(Tue)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
音弾く青き空あり松手入     平成四年作

 秋の澄んだ空が広がり、松手入の鋏の音が絶え間なかった。
2020/11/16(Mon)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
白布巾茶垣に干せり修道院     平成四年作

 多治見の修道院はカトリック神言修道会の本部修道院として設立。広い敷地にぶどう畠、茶垣、野菜畠、墓地などがある。
2020/11/16(Mon)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
桑車きぎすの卵乗せて来し     平成四年作

 揖斐の谷汲村に養蚕をする老夫婦があり、よく見せて貰いに行った。桑を枝ごと切っていっぱい積んだ上に白い卵、これを食べるという。
2020/11/16(Mon)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
水に浮く蓑虫拾ふ無名庵     平成四年作

 大津市の義仲寺境内に無名庵がある。芭蕉を慕う弟子が集まって俳諧道場としていたところである。その前に小さな池があった。
2020/10/2(Fri)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
観阿彌の土の舞台や黄落す     平成三年作

 三重県名張市の福田神社境内に「観阿彌創座之地」がある。土で舞台が設えてあった。観阿彌三十歳の頃という。
2020/10/2(Fri)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
烏帽子に腰蓑で来て鵜の供養     平成三年作

 十月十五日、長良川の鵜飼が幕を閉じるが、その後最初の日曜日にその年に死んだ鵜の供養が行われる。六人の鵜匠も正装して参列する。
2020/10/2(Fri)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
筍の一番掘りを飛鳥仏     平成三年作

 奈良の飛鳥大仏に供えられた太い筍。その朝一番に掘った筍のように思われた。
2020/9/1(Tue)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
修二会の火の粉へ赤子掲げたり     平成三年作

 三月九日、「風」同人総会が奈良の春日ホテルにて行われ、初めて修二会を見た。誰かが一番前で赤子を高く掲げていた。
2020/9/1(Tue)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
野茨の水漬きて熟るる湖の国     平成三年作

 琵琶湖の水嵩が増し、岸辺の野茨の実を浸していたが一層鮮やかだった。
2020/9/1(Tue)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
蛇の衣提げ来し女礼者かな     平成三年作

 伊賀の芭蕉公園で冬までも残り寒風に晒されていた蛇の衣。それを剥がし、「山繭」新年会会場まで持って行った。
2020/8/1(Sat)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
関節の赤艶やかや初蝗     平成二年作

 他の蝗はどうか知らないが、この時見た蝗の赤い関節に初蝗らしさを感じた。
2020/8/1(Sat)
自註現代俳句シリーズ 辻恵美子集より
牡丹の襞に空気の湿りかな     平成二年作

 牡丹の花びらにあるぎざぎざした細かな襞、そこに湿った空気の感触があった。
2020/8/1(Sat)