栴檀

栴檀関係の刊行物


◆辻恵美子主宰 刊行物               

辻恵美子 第一句集
『鵜の唄』
風発行所
1996年11月発行
風土と生活を題材にし、それらを俳句作品に生かされた・・・・・・本句集を一言でいえば、中見が濃厚で女流には珍しいスケールの大きな句集である
沢木欣一
(「序」より)
法師蝉啼き止みし時人の声
遠ざかるほど白蓮の深き白
げんげ田の遠くは濃かり啄木忌
風渡る時色重ね花菖蒲
水底の砂動きゐる涅槃西風
栗の毬風呂に焚きをり丹波人
妊りの乳房が熱し落葉山
  送り火を鵜舟の陰に焚きゐたり
白鳥の胸菱の実の刺さりゐし
地蔵盆北国みちに床几出し


沢木欣一 選

辻恵美子 第二句集
『萌葱』
(株)角川書店
2009年7月発行
去年私は還暦を迎えました。(当時)二十一歳で沢木欣一主宰「風」に入会してから四十年、多くの人の支えにより続けてくることが出来ました。 俳句はもはや私そのもののようにも思います。 神の被造物の美しさを俳句に詠むことが出来る恵みに感謝しつつ、今後も物をまっすぐに見、作句していきたいと願っています。
辻恵美子
        
真つ青な笹の葉を敷く鵜の巣かな
浜名湖の狭くなりしと牡蠣砕く
枯れてゆくしだれ柳の萌葱色
涙目に青葭の真つ直ぐに立つ
渡り鷹風の速度に入りけり
枝の揺れ幹に響きて花樗
あめつちの真つ直中を鷹渡る
屑藷を背負へる頬へ冬怒濤
蹼も羽も破れし鵜なりけり
那智の瀧万朶の花の中に落つ
衣掛の柳の下の遅田植
疲れ鵜の首に手縄の食ひ込めり

辻恵美子集
あとがき
本書の三百句は、私の二つの句集『鵜の唄』『萌葱』から選びました。自選は思いが先行し簡単ではありませんでしたが、註をつける作業は、忘れていた過去を甦らせてくれ、懐かしく、私の半生を改めて振り返らせてくれました。 出版の機会を与えて下さり、何かとお世話くださった俳人協会の担当の方、また、打ち込み、校正を助けて下さった藤田佑美子さんに心より感謝いたします。
平成二十四年十二月
辻恵美子
        






  自註現代俳句シリーズ・11期 56
          2013年5月発行

辻恵美子 第三句集
『帆翔』
(株)角川書店
2014年3月発行
感性を誇張せず、言葉に負担をかけず、見たものを見なかったことにせず、見えないものを見たと言わない。「いかにも」といった見栄を切った詠み方を避け、見たままの侘しさも有りの儘に、その場その時の空気を、言葉が慈しんでいる。 しかも当然のように上手い。抑えに抑えた「風」仕込みの上手さである。

正木ゆう子
        
楠一樹春風を生みつづけをり
吹き荒ぶ風のどこかが囀れり
一瞬の初つばくろのやうなもの
痩せ梅の疎らの花を見に戻る
ぼうたんに屈みて同じ風にゐる
女滝にて遠き男滝の音聞けり
木を仰ぎ木に見入りけり夏の果
白木槿吾を忘れて真白なり
鷹三千渡るや鷹の世のごとく
渡り鷹一羽一羽の距離美し
秋深き隣は僧侶らの宴
赤子瞳をみひらきてをり去年今年
つけたての名前を呼びてお正月
ゑのころのか細きも枯れ全うす
赤ん坊の母の外出麦鶉

辻恵美子
『泥の好きなつばめ』
細見綾子の俳句鑑賞
邑書林
2017年10月発行
鶏頭を三尺離れもの思ふ
若くして茅舎賞を、円熟期に芸術選奨・蛇笏賞を受賞した不世出の昭和の俳人・細見綾子。その高弟が懇切丁寧に代表的二百句を読み解き、美しさ、深さ、おもしろさの秘密に迫る会心の労作!        
主宰誌「栴檀」十五周年記念出版
  細見綾子
(1907―1997)
兵庫県生まれ。日本女子大学卒業後結婚するが夫病没。郷里で肋膜(ろくまく)炎を病む。医師の勧めで作句。1929年(昭和4)より松瀬青々(せいせい)に師事、『倦鳥(けんちょう)』に投句。37年青々死去。42年第一句集『桃は八重(やえ)』刊行。46年(昭和21)『風』創刊、同人となる。翌年同誌の沢木欣一(きんいち)と結婚。以後『冬薔薇(ふゆそうび)』(1952)で茅舎(ぼうしゃ)賞、『伎芸天(ぎげいてん)』(1975)で芸術選奨文部大臣賞、『曼陀羅(まんだら)』(1979)で蛇笏(だこつ)賞を得た。平淡典雅の作風で、女流の第一人者であった。
◆栴檀同人他 刊行物

栴檀叢書1
 句集『弾初』
 桑添礼子
栴檀発行所
 2007年11月発行
礼子さんの句の「やわらかし」「ふれゆく」「ほぐれ」「撫づる」「まろやか」といった措辞が奏でるやさしくやわらかな世界。礼子俳句には こういった言葉が好んで使われている。ネガティブな語はほとんど見当たらないといってよい。礼子さんの物の見方、感じ方、ひいては人生哲学までをも、そんな所に見る思いがする。
辻恵美子
(「序」より抜粋)
 桑解くや富士全容のやはらかし
 奥能登や雲がふれゆく合歓の花
 観音の朱唇にほぐれ猫柳
 児のつむり数珠にて撫づる寒念仏
 接骨木の冬芽まろやか葛乾く
 福寿草みどり児の眉父に似て
 盆棚に遺愛のパイプ磨かれて
 弾初の小犬のワルツもつれけり
 大茅の輪まづ白蝶のくぐりけり
 日輪の大きな岬鷹渡る
 梅花藻の流れに靡く涼しさよ


辻恵美子 選

栴檀叢書2
 句集『青田波』
 原口洋子
栴檀発行所
 2008年5月発行
平成十三年、夫が急逝し深い悲しみを味わいました。俳句はそんな私に気力を与えてくれました。軽い気持ちで入った成人学級の俳句講座でしたが、 次第に引き込まれ二十年余りの歳月がたち、間もなく喜寿を迎えます。辻恵美子主宰の御指導を直に仰ぐことのできる幸せを噛みしめ、学び続けたいと存じます。
あとがきより

洋子さんの句はたとえ情の句の場合もきちんとした写生がなされ、気分に流されてしまっていないところに写生の力をみることが出来るのだ。
辻恵美子
(「序」より抜粋)
 大寒のゆつくりと飲む生姜湯
 放たれし稚鮎しばらく岸に沿ふ
 草の芽を散らし仔山羊の弾みをり
 やはらかな影を重ねて若楓
                 郡上白鳥の六日祭
 花奪ひの雪に踏まれし花拾ふ
 お木曳きの車輪の響き樟若葉
            夫
 寒夕焼け眺めをりしが逝かれけり
 大津絵の鬼に囲まれ心太
 子を探すらし白鳥の高鳴くは
 滝落ちて逆巻く波に呑み込まる
 蝶ひとつ弾き出したる青田波


辻恵美子 選

栴檀叢書3
 句集『蕪汁』
 後藤和朗
栴檀発行所
 2012年3月発行
後藤和朗氏が俳句の道に入られたのは五十五歳の時。定年後を見越して、意識的、能動的に始められたのは貴重である。 平成十二年頃から本格的に作句に取り組み「風」同人に推されたのが平成十三年。しかしながら「風」はその後すぐ終刊となり「風」最後の同人ということになった。 さて、和朗氏の俳句を一口にいえば、即物写生の目が確かで感覚がやわらかい。また風土色豊かである。そしてそれらの心底を貫くのは対象への慈しみの眼、やさしさである。
辻恵美子
(「序」より抜粋)
 年用意父が遺愛の伊万里皿
 離れ住む子の話して螢の夜
 黴餅を削りて母を想ひけり
 もう勤め退けよと妻や蕪汁
 言の葉をなくせし姉よ浮いて来い
 若鮎の跳ぶ渾身の反り身かな
 落鮎の川の水より冷たかり
 野を焼いて水光り出す湖北かな
 風垣に凭れ掛かりて豆の稲架
 老桜の虚に溜まれり冬の雨
 大寒の味噌蔵柱塩噴けり
 耳元にまだ風の音おでん鍋
 蚕豆を剥けば空気のあたらしく
 雪原に降り白鳥に影生まる
 夕焼に染まらぬ雲と染まる雲


辻恵美子 選

 句集『豆御飯』
 安藤重子
 (有)鋭文社
 2013年12月発行
永らへて夫の好める豆御飯
この家に父母看取り豆御飯
豆御飯は重子さんもさることながら殊にご主人の好物だった。 また、この家に御両親を看取った後の豆御飯の味は看取った重子さんこそが知る味だったであろう。更にこの豆は、ご主人と重子さんの菜園で獲れた豆と思えば尚更思いがこもるのである。 このように本句集には重子さんと最も係わりの深い家族を詠んだ句が実に多い。
辻恵美子
(「序」より)
 籐椅子に絣の父の写真かな
 職退きし夫畝高く藷植うる
 産月の髪にこぼるる金木犀
 あやとりに大き手を貸す雛の宵
 声変わりせし子の正座歌留多会
 母植ゑしふうせんかづら咲きのぼり
 新樹光両手をひろげ初歩き
 早起きの蟻潜りをる花南瓜
 葉牡丹の渦の中まで雪降れり
 草分けて分け入りて切る吾亦紅
 白萩のゆたかに垂れて夕さるる
 義民の碑さくら紅葉の降るなかに


辻恵美子 選

土川照恵 第一句集
 『待宵』
 本阿弥書店
 2014年11月発行
飛ぶ鳶の眼を見たり冬岬
照恵さんの句は一句一句それぞれ異なった表情をもち、バラエティーに富んだ豊かさがあることがわかる。 十七年という時間の中でこのような豊かな世界を築いて来られたことに瞠目し、その真摯でひたすらな歩みを大いに称揚したい。
辻恵美子
(「序」より)
 ■『待宵』十句抄
 古稀なるや春暁色の蘭貰ひ
 けふ夏至のあぢさゐいろにオホーツク
 妙心寺抜けて仁和寺花の旅
 待宵の月に乾杯ナポリかな
 鳧の子の茅花の土手をころげ落つ
 眠る子のあたり花びら浮遊せり
 はじめから破れてゐたり破れ傘
 祝ぎ花のどれにも入れて吾亦紅
 飛ぶ鳶の眼を見たり冬岬
 ぺんぺん草はこべら長けて綾子の居


辻恵美子 選

遠藤三鈴 第一句集
 『盆唄』
 本阿弥書店
 2015年8月発行
紫の真あたらしさよ燕子花
三鈴さんという人は物静かで控えめ、端正で何事も品よく処せられ、それでいて責任感は強い。このたびの句集では三鈴さんの芯の強さや前へ向かおうとする積極的な力の働きが多く見られ、私は今までの見方を覆されたようであった。
辻恵美子
(「序」より)
 ■『盆唄』十句抄
 牡丹榾焚くむらさきの煙かな
 春愁や薩摩切子の深き藍
 同じ名のみすヾの栞藍さやか
 土用次郎囲碁の好きなる兄逝けり
 籐椅子の父在るごとく置かれあり
 盆唄の父の作詞を懐かしむ
 弥生尽訪へばやさしき加賀言葉
 山焼きの火と火繋がるとき猛る
 雨樋の鳴つているなり大旦
 谿深く徹夜踊の谺する


辻恵美子 選

清水雅子 第一句集
『熟れ麦』
一般財団法人
角川文化振興財団
2016年12月発行
丹波は田ステ女、細見綾子らを輩出した土地であり、雅子さんにもそういう末裔の中に身を置くものとしての力が働いているように思う。母の句の素直な詠みぶり、夫への愛情、師系への強い思い、そしてものの命や本質に食い込んだ句など、十六年間、多くのエネルギーを費やし、走り続けてきた成果を心よりお祝いする。
辻恵美子
綾子生家黒豆稲架の鳴るばかり
大年の残照流す大河かな
母の試歩木槿の花に声かけて
居待月夫が煙草を吸ひに出る
霧深き丹波に句会欣一忌
熟れ麦を見に来よと言う夫若し
刈株の色となりたる冬蝗
出棺や音なく寄する青田波
ぼろ市の五徳を値切る男かな
地下鉄の階段のぼりきれば冬
柚子風呂や今年逝きたる人の顔
白夜かな人は水辺にあつまりて


辻恵美子 選

石橋三紀 第一句集
『象牙の箸』
本阿弥書店
2017年9月発行
亡き夫の象牙の箸や冷奴
三紀さんが一人で食事をとっていた時ふと夫の大事にしていた象牙の箸が冷奴へ伸びて来たように見えたのだ。そして亡き夫といつもの食卓を囲んでいるような錯覚を覚えたのである。象牙の箸が象徴的でお二人の間を物語るようにうつくしい。
辻恵美子
(「序」より)
 ■『象牙の箸』十句選
 亡き夫の象牙の箸や冷奴
 「年用意せずともよい」と子の手紙
 雛飾りたる日はひと日雛のそば
 ビル街を抜けて歪な冬の月
 調教の一騎駆けゆく走り梅雨
 招き猫秋暑の口を尖らせて
 バスを待つ四五人に飛ぶ穂絮かな
 小流れを跳べば瞬く犬ふぐり
 雨戸操る音の拡がる秋の雲
 老人ホームいつも冬鳥来てゐる樹


辻恵美子 選

森島紘子 第一句集
『雛の燈』
本阿弥書店
2019年2月発行
はるかなる島へ黙祷青岬
社会のことを作品化するのは難しく敬遠しがちだが、紘子さんは心に感じたままをいともたやすく句にしている。出来栄えを基準としない姿勢が思われて清々しい。が実はそれが却って佳句を生むのである。ここに哲理がある。
辻恵美子
(「序」より)
■『雛の燈』十句選
色鳥や川を隔てて烽火山
大空をとび出してくる瀧の水
雛の燈を点し宿題はじめけり
初蝉や夫の遺愛の木犀に
赤ん坊の瞳に初めての聖樹の燈
はるかなる島へ黙祷青岬
水口板上ぐるや蛇の滑り込む
若竹の一斉に揺れ個々に止む
驟雨来て天地洗へり広島忌
雪霏霏と殺処分てふ三万羽


辻恵美子 選



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